電力会社の切り替えをご検討のあなたなら、電力自由化でこんな謳い文句を聞いたことがありませんか?
・電気代が安くなる♪
・停電は増えない♪
・小売事業者が倒産しても、すぐに電気が止まることはない♪
電力会社の切り替えは、自分(あなた)にとって有利過ぎて、その根拠を知らないと心配になるかもしれません。
どうして安く電気を販売できるのか?
停電が増えないと言い切れる理由は?
小売業者が倒産しても電気を使えるのはなぜ?
実は、誰もが納得できる理由と仕組みがあります。
この記事を読めば、この仕組みについて制度や物理的な面から疑問が解消されます。
・以前の電力会社よりも電気を安く買える制度上の仕組み
・停電が増えない物理的な仕組み
・小売業者が倒産しても大丈夫な、消費者保護の仕組み
ぜひ最後まで読んで、合理的な電気の選択をする際の参考にしてください。
1.電力自由化で電気代が安くなる仕組み
この章では、様々な小売事業者が安い電力メニューを用意できる仕組みを説明します。
電気料金が安くなる仕組みは、大きく分けて2つあります。
① 電力小売の全面自由化で、複数の小売電気事業者が市場に参入できる仕組み
② 小売電気事業者(電力会社)が電気代を決められる「自由料金」という仕組み
全国に10社しかなかった電力会社が約450社となり、電気料金も「自由料金」となったため、電力会社の間で価格競争が発生し、電気代が安くなるということです。
どの電力会社もお客さんを確保しようと努力(例:電気代を下げる、サービスを増やす、メニューを増やす)します。
電気代が安くなる仕組みを詳しく知りたい方は、本章を読み進めてください。
1-1.「電力小売全面自由化」で誰でも電気を販売できるようになった
以前は、日本を10の地域に分けて、各地域に1社の電力会社が電気を作って送って売るところまで独占していました。
このうちの電気を作るところと売るところに誰でも参入できるようにしたのが電力自由化です。
電力小売市場に何百という業者が自由競争できるようになりました。ちなみに、2018年2月現在電力会社の数は453社になっています。
1-2.「規制料金」から「自由料金」へ 電気料金の仕組みが変わった
「規制料金」ってなに?
電力自由化以前は、総括原価方式と言われる「規制料金」でした。
電力会社が値上げしたくても、国に認めてもらえなければできない仕組みでした。
総括原価方式=必要経費+利益ー本業以外の利益(+燃料費調整)=電気料金の収入
電力会社は自由に電気料金を決められませんが「利益を確保できて競争相手もいない」という状態です。
誰でも電気を売れるようにしても、全員同じ料金で販売していては競争になりません。
そこで導入されたのが、自由料金です。
「自由料金」って何?
各小売電気事業者が自由に電気料金を決められるようにしたのです。
- A社は単純に安い電気料金のプラン
- B社は2年契約で割引を受けられる料金プラン
- C社は基本料金無料で使った分だけ支払う料金プラン
- D社は携帯電話とセットでお得な料金プラン
このように、「自由料金」なので、様々な新電力会社が独自のサービスを提供しています。
1-3.「独占販売」から「自由競争」への変化で価格競争が起きて電気代が安くなる仕組み
「電力小売全面自由化」で、それまで独占だった電力の小売り事業に競争相手が登場しました。
自由料金が導入されたことで、競争相手と差をつけるために電気代を下げることが可能になりました。
コスト削減などの企業努力を電気料金に反映させることできるので、シェアを拡大し事業を大きくするための競争が活性化されました。
1-4.ちょっと待って!電気代が安くならないケースもあります
実際に電気代の比較サイトで比べてみると、今より高くなるメニューもあることに気づくと思います。
ほとんどの電力会社の切り替えで次のことが当てはまります。
・たくさん電気を使う人は、削減額も大きい。
・あまり電気を使わない人は、削減額も小さい。
自由料金では、各社が自由に料金を決められるため、安くなる一方とは限りません。
燃料費の高騰、寡占化、設備更新などで高くなることもありえます。
価格変更時の連絡方法や時期、他の電力会社より高くなるようだったら解約できるのか、違約金の有無など、契約時に確認しておく必要があります。
電気代が安くなる人と安くならない人は「電力使用量」で決まる
電気は、日常生活に必要不可欠のものです。
多くの家庭で契約している「従量電灯」という契約は、電気の使用量に応じて電気料金が決まります。
この従量電灯は電気を使えば使うほど1kWhあたりの単価が高くなります。中部電力の従量電灯Bの単価を例にあげます。
このように、ひと月の電気使用量が120kWh未満であれば安い単価(¥20.68/kWh)が適用されています。
一方で、300kWh以上の電気使用量については高い単価(¥27.97/kWh)が設定されています。
なぜ、このような段階別の料金設定がされているかというと、オイルショック(石油危機)の経験があるからです。
消費者保護と節電を促す目的で、生活に必要な分は割安に、それ以上は割高になるように設定されています。
このため、あまり電気を使わない(毎月の電気使用量が120kWh未満がほとんど)場合は、電気代の削減額はあまり期待できません。
全体的な傾向としては、電気使用量が少ない家庭や事業所ではメリットが出にくくなります。
(その反対に、電気使用量が多い家庭や事業所ではメリットが出やすくなります。)
2.電気が届くまでの物理的仕組み 停電が増えない理由がわかる
この章では停電について、なぜ増えないといえるのか説明します。
停電が増えない理由は一つで、新電力会社に切り替えても「これまでと変わらない電線網(送配電設備)を使うから」です。
購入先の電力会社が変わるだけで、あなたの家に送られる電気の質も、電気を送るための設備も変わらないからです。
つまり、停電頻度は今までと変わりありません。
詳しく知りたい方は、本章を読み進めてください。
2-1.そもそもなぜ停電は起きるのか?3つの理由
停電が発生する具体的な原因は自然災害や故障、事故などいくつもありますが、大別すると3つです。
①故障や断線、漏電などで電気がそもそも流れない(送配電設備の管理)
②電圧が不安定(電気の質)
③電気が必要量に足りない(需給バランス)
①は設備の管理の問題です。
②と③は必要な電気の量と作る電気の量のバランスの問題です。
小売業者を切り替えても、これら3つに問題がなければ停電が増えることはない、と言えます。
2-2.電気を作ってから使うまでの物理的な仕組みと設備の管理
電気を作ってから使うまでの物理的な仕組みは、電力自由化前と後で変わりません。
誰が設備を管理するかが変わりました。
資源エネルギー庁ホームページ「電力供給の仕組み」より引用
電力自由化前は、発電も送配電も独占企業である電力会社が設備まで含めて管理していました。
電力自由化後は、発電所は発電事業者が管理します。それ以降の送配電設備は一般送配電事業者が管理します。
電力自由化前 | 電力自由化後 | ||
---|---|---|---|
発電所 | 送配電 | 発電所 | 送配電 |
地域の電力会社 | 発電事業者 | 一般送配電事業者 |
※一般送配電事業者については「4-1.一般送配電事業者とは」をご覧ください。
2-3.送配電設備の管理は以前と変わらない
送配電設備の管理は、旧来の電力会社の送配電部門が分社化される地域に1社の「一般送配電事業者」が行います。
自然災害や事故が発生し、電力網が途切れた際の復旧も一般送配電事業者の役割で、小売事業者の出る幕はありません。
実際に管理している人たちは電力自由化前と変わらないということです。
小売事業者が送配電設備の管理に直接関わることはないため、電気の購入先を変えたからといって送配電設備の管理を理由とした停電が「増える」ことはありえません。
2-4.電気の質が変わらない理由は変電所にある
売事業者によって電気の質が変わらない理由は、変電所にあります。
どこの発電所で作った電気でも、変電所でひとまとめにして品質を整えます。
だからどの小売事業者から電気を買っても同じ質の電気が届きます。
「発電所」で作られた電気は、一旦変電所に送られます。
「変電所」では、複数の発電所で作られた電気をひとまとめにして高い電圧に変え、送電ロスを減らします。
この時点で、他の発電所の電気と区別がつかなくなり、同じ一定の電圧に整えられます。
変電所は送配電設備の一部です。
つまり、電力自由化前と同じ設備管理体制です。
そのため、小売事業者が変わっても、変電所は同じなので電圧が不安定になったりしないのです。
2-5.停電が増えないのは需給バランスを調整する仕組みがあるから
需給バランスをとるのは重要です。
なぜなら、電気が少なすぎると停電になり、多すぎると家電製品を壊しかねないからです。
電気の需要量と供給量のバランスは、3つの仕組みで確保されています。
①発電事業者と小売事業者が需給バランスをとる
発電事業者と小売事業者が需給予測に基づいて、30分単位で使う電気の量(需要量)と発電する電気の量(供給量)が同じになるように需給バランスを調整します。
事前に計画した値に合わせるので、「計画値同時同量」といいます。
②さらに需給バランスが取れているかを2つの組織でチェックしている
電力広域的運営推進機関や一般送配電事業者が全体でバランスが取れているかチェックしています。
予期しない需要の増減や発電所のトラブルなどでバランス調整に失敗する可能性があるからです。
過不足が許容範囲を超えている場合、電力広域的運営推進機関や一般送配電事業者が発電事業者に対して出力調整を依頼します。
③広範囲でのバランス調整役は電力広域的運営推進機関が担う
自然災害等で各一般送配電事業者が単独でバランスを取れない場合、電力広域的運営推進機関が一般送配電事業者間の需給調整を行います。
実際に電気を作る事業者と売る事業者がバランスをとって、一般送配電事業者が監視し、必要に応じてバランスを調整するという、監視役がいる体制になっているため、バランスが崩れることは考えにくいです。
需給バランスの調整にもスマートメーターが活用されています
小売事業者が「計画値同時同量」を達成できたか確認するために、スマートメーターが活用されています。
同時同量を達成できなかった事業者は、後から過不足分を清算します。
需給バランスを調整する仕組みにタダ乗りするような悪質な事業者を排除し市場を健全に保つためです。
電気の過不足した量を「インバランス」、清算する際の単価を「インバランス料金」と言います。
スマートメーターなら、30分ごとの電気の使用量(需要量)がわかるので、同時同量を達成できたか確認できます。
3.消費者保護の仕組み 小売事業者の倒産
この章では、もう一つ心配されることが多い小売事業者の倒産について、消費者保護の仕組みをご説明します。
電力小売全面自由化で、以前にはありえなかった電力小売事業者の倒産や撤退がおきるようになりました。
実際に、2016年に日本ロジテックが倒産しました。
2017年には大東エナジーが撤退しています。
いずれも大手と言われる小売事業者でした。
450社以上が小売事業者として国に登録していますが、いつか必ず淘汰されます。
そのため、次の3つの「消費者を保護する仕組み」が設けられました。
①電気購入先の小売事業者は電力の供給が止まる前に消費者へ通知する義務
②2020年3月までは、一般電気事業者(中部電力等)がフォローする仕組み
③2020年4月以降は、一般送配電事業者(※4-1参照)が最後の砦として電力を供給してくれる
小売事業者の倒産、撤退は事前に予測しにくいものです。
そのため、もしもの場合のセーフティーネットを知っておくことが重要です。
電力自由化に伴う消費者保護の仕組みを詳しく知りたい方は、本章を読み進めてください。
3-1.小売事業者は供給が止まる前に通知する義務がある
小売事業者が倒産・撤退する場合、形式上は消費者との契約解除となります。
小売事業者は、事業者理由で契約解除する場合、消費者に次の3点を前もって連絡する必要があります。
・このままだと何日に電気が止まるか
・停電を避けるには他の電力会社と契約する必要がある
・他の電力会社と契約するまでのバックアップの申し込み方
この通知があることで、消費者は「いつまでに次の電力会社と契約しないと電気が止まるのか」、「契約がまとまらない場合どうしたら良いのか」知ることができます。
上記3点の根拠は経済産業省の「電力の小売営業に関わる指針」です。
① 小売供給契約の解除を行う15日程度前までに(中略)解除予告通知を行うこと。
② 解除予告通知の際に、無契約となった場合には電気の供給が止まることや、最終保障供給(経過措置期間中は特定小売供給)を申し込む方法があることを説明すること。
③ 小売供給契約の解除に伴い、(中略)一般送配電事業者に託送供給契約の解除の連絡を行うこと。経済産業省「電力の小売営業に関する指針」より
3-2.電力自由化の経過措置(2020年3月)までは一般電気事業者がフォローする仕組み
規則があっても、全てのケースで小売事業者が余裕を持って通知を出せるとは限りません。
また、通知があってから停電するまでに別の小売事業者と必ず契約できるとも限りません。
そんな場合でも電気の供給が止まらないように、消費者を保護する仕組みがあります。
2020年3月までは、一般電気事業者に電気の供給義務が課せられています。
がいわゆる「規制料金」の電力メニューを残しており、特定小売供給として契約を結ぶことで、自由料金に切り替える前と同等のサービスを受けられるのです。
この制度で、切り替える前より電気代が高くなるということはまずないと言われます。
2016年以前の時間帯別プラン(メニュー)などに加入している場合は要注意
一般電気事業者は供給義務を負いますが、特定小売供給として提供しているプランは「現時点での取扱プラン」です。
つまり、「昔あったあの料金プランに戻りたい」と思っても、そのプランの新規加入が廃止されていれば選択できません。
そのため、現在は新規加入できない電力プランで登録している場合は、一般電気事業者の現在の規制料金プランに切り替えた場合の電気料金でいくらになるのかシミュレーションしておくこともおすすめします。
3-3. 経過措置終了後の2020年4月以降は一般送配電事業者が最後の砦として電力を供給する
2020年4月以降は、一般電気事業者の供給義務が無くなり、代わりとして一般送配電事業者が最終保証供給を行う予定です。
電気の供給義務 | |
---|---|
2020年3月まで | 2020年4月以降 |
一般電気事業者 | 一般送配電事業者 |
一般電気事業者の「発電・小売部門」と「送配電部門」が別会社になる「発送電分離」が完了するためです。
現時点では金額や期間、供給に必要な電力の確保方法、必要な手続きといった細部までは決まっていません。
4.電気と消費者の安定・安全を担う2つの組織
この章では、これまでご紹介した仕組みがうまく働くように運用する組織をご紹介します。
4-1.一般送配電事業者とは
一般送配電事業者とは、各地域にあった10電力会社の送配電部門が分社化(法的分離)されて誕生する会社です。
一般送配電事業者は、担当地域の電力網管理やバランス調整、消費者保護を担当します。
消費者から見た主な役割は次の3つです。
・送配電設備の管理、運営
・需給バランスの調整
・倒産した小売事業者の顧客の最終保証供給(2020年4月以降)
このように担当地域の電気の安定、安全を担っています。
尚、東京電力は先行して既に分社化していますが、その他の9電力会社も2020年4月までに分社化する予定です。
4-2.一般送配電事業者が必要とする費用は電気代に「託送料金」という形で含まれる
電力網は電気を買う人全てが利用する大切な設備です。
そのため、維持管理にかかる費用は電気の使用量に応じて皆で負担することになります。
この費用は「託送料金」という名前で、全ての小売事業者の電気代に含まれています。
消費者が直接一般送配電事業者に支払うことはありません。
4-3.電力広域的運営推進機関とは
電力広域的運営推進機関とは、日本中の”電気があるあたりまえ”を守り続けるための司令塔となる組織です。
組織名が長いので、単に「広域機関」や英語名の「OCCTO」とも呼ばれます。
具体的な役割として次の4つがあげられます。
・より広い範囲(日本全国)での需給調整
・中、長期的な安定供給の確保
・電力網を公平に利用できる環境整備
・小売事業者を切り替えるための「スイッチング支援システム」運営、管理
広域機関は日本全国でのバランス調整や供給計画と小売事業者切り替え手続きシステムの管理、運営を担当します。
広域機関:地域をまたがる広い範囲の担当
一般送配電事業者:各地域の担当
一般送配電事業者は一般電気事業者から分社化するとはいえ、元は同じ会社です。
便宜をはかることは禁止されていても、公平に電力網の管理や使用ができているか監視する必要があります。
消費者と直接関わることはありませんが、電力自由化の公平な進捗を担保するための重要な組織と言えます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
電力自由化のメリットの仕組みには制度的な裏付けがあります。
そして、制度がうまく機能するように監視する仕組みまで用意されていることがお分りいただけたと思います。
また、業者の倒産や撤退にも、セーフティーネットの制度が準備されています。
今後、手続きや供給期間などといったより具体的なセーフティーネットの中身も決められていく予定です。
私たち消費者の賢い選択がこれからの電力業界の健全な発展を支えます。
ぜひ、あなたのライフスタイルやあなたの会社にあった電力会社を選んでください!