再生可能エネルギーの固定価格買取制度に関して、ショッキングなニュースが出ました。
2020年度から、50kW未満の太陽光発電は余剰電力だけ買い取るというニュースです。
この記事にたどり着いたあなたも、これから太陽光発電所を作る場合に、全量売電ができなくなるのでは、とご心配ではないでしょうか。
実は、2019年までの固定価格買取制度(FIT)と比べても制度がかなり複雑化します。
そこでこの記事では、2020年度のFITについて有識者会議の公開資料を元に、次の4点を説明します。
・全量買取はどうなるのか
・FIT制度はどうなるのか
・いつから実施されるのか
・小委員会の大まかな内容
最後まで読めば、あなたがこれから太陽光発電所を設置するうえでどのように進めれば良いのか、大きなヒントになるはずです。
ぜひ最後までお付き合いください。
※ 2月26日更新 【2-3】に事業計画策定ガイドライン改定案で示された条件を追記
【1】2020年度の太陽光発電|全量売電・余剰売電のざっくりまとめ
まずは、制度の全体像を理解しましょう。
全量売電と余剰売電の対象設備の区分を下の図にしましたのでご覧ください。
全量買取は、高圧(設置容量50kW以上)とソーラーシェアリング(10kW以上)が対象です。
さらに、2019年度までは500kW以上が「入札」の対象でしたが2020年度からは250kW以上となりました。
50kW未満の低圧の太陽光発電の余剰買取も新たにいくつかの条件が付きます。
より詳しく知りたい方は2章以降で説明します。
【2】2020年度の太陽光発電に適用される買取制度
この章では、2020年度に実施される制度改正の枠組みを説明します。
2020年2月4日に調達価格等算定委員会の委員長案が公開されました。
売電価格に加えて、2020年度から実施される制度変更の内容が記載されました。
太陽光発電の制度がどのように変わるのか、簡単に紹介します。
【2-1】太陽光発電の買取制度はFIT制度だが、設置容量などによって5つに分かれる
太陽光発電の買取制度はFIT制度が維持されました。
その一方で、発電所出力による枠組みと、余剰売電か全量売電かの区切りが大きく変わりました。
余剰買取・全量買取 | 発電区分 (設置容量) | 売電価格 (円/kWh) | 売電期間 |
---|---|---|---|
余剰買取 | 住宅用10kW未満 | 21円税込 | 10年 |
10kW以上50kW未満 | 13円税別 | 20年 | |
全量買取 (余剰の選択も可) | 【新設】 10kW以上50kW未満(ソーラーシェアリング限定) | ||
【新設】 50kW以上250kW未満 | 12円税別 | ||
【新設】 250kW以上 | 入札 |
2019年までと発電区分や全量売電可能な枠組みが大きく異なるため気をつけましょう。
【2-2】全量買取は原則50kW以上限定になる
原則として、全量買取は50kW以上限定で全量買取を選択可能です。
50kW以上の太陽光発電は高圧で電力網と繋ぎます。
50kW以上の高圧の太陽光発電は今までのFITと同様に、キュービクルの設置や電気主任技術者の専任、電気事業法の手続きなどいくつかの義務があります。
50kW未満の場合にはかからなかった費用が設置時にも運営時にも発生するので、その費用を見込んだ収支シミュレーションが必要です。
例外として、10kW以上50kW未満のソーラーシェアリングは条件付きで全量売電が可能です。
条件とは、「災害時に電源として使用できること」「10年間の一時転用が認められ得る」というものです。
【2-3】50kW未満は30%以上の自家消費と災害時に電気を使える(自立運転可能)ことが条件
事前のニュースの通り、50kW未満は全量買取の対象外になりました。
買取制度適用の条件で特に注目すべきなのは、【余剰買取(30%以上の自家消費)】と【自立運転可能(災害時に電源として使用できる)】ことです。
公開された具体的な条件は次の5つです。
条件①:認定前に「自家消費計画※」を提出・・・認定前にどの程度自家消費するか計画を提出する。詳細未定。
※自家消費計画とは、詳細は未定ですがどの程度電力を自家消費するかの計画です。
条件②:自家消費可能な設備・・・認定前に配線図等の資料を提出して自家消費できる構造になっているか確認する。詳細未定。
条件③:自家消費比率は30%以上
条件④:自家消費比率と認定の取り消し・・・自家消費比率を満たしていない場合、認定取り消しの可能性がある
条件⑤:災害時の電源活用・・・自立運転機能付きのパワコンでコンセントを設置し、災害時に実際に使えるようにする。合計で10kW以上のパワコンに、1.5kW以上の自立運転出力を確保すること。
実務上、認定までの手続きに必要な書類が増えること、パワコンの選定に条件が付くことが予想できます。
発電した量の30%は自家消費する必要があるということは、発電量の70%は売電が可能ということです。
建物の屋根に設置する場合でも、使用する電気の量が30%を超えるように考えて、太陽光発電の容量を決める必要があります。
事業計画策定ガイドラインの改定案で具体的な条件が追加された
2020年2月17日からパブリックコメントの募集が開始された事業計画策定ガイドラインの改定案で、具体的な条件が4つ追加されています。
追加条件①:3年以上、電気料金請求書や検針票を保存すること
追加条件②:監視装置やパワコンの機能、写真を使って発電量を記録し、3年以上保存すること
追加条件③:合計で10kW以上のパワコンに自立運転機能がついていること
追加条件④:1.5kW以上の自立運転出力を備えていること
パワコンに表示される発電量を記録する手間を考えると、監視装置が必須といえます。
また、現在主流の5.5kWや9.9kWのパワコンの場合、2台以上に自立運転機能が必要です。
【3】新しい制度が適用される時期は2019年12月21以降
この章では新しい制度が適用される時期を紹介します。
【3-1】2020年度の認定から適用される
2月4日に公開された制度は、2020年度の事業計画認定から適用されます。
2019年12月21日以降に申請された新規認定申請が適用対象です。
そのため、パブリックコメントが終了して自家消費計画などの様式、内容が決定してから、追加で書類の提出が必要になります。
【3-2】2021年度以降にも再度大きな改正が行われる
2020年度から実施となった改正は、再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会で話し合われた内容の一部です。
同じ委員会で議論されていた内容でも、まだ結論が出ていないもの、反映されていないものがいくつもあります。
そのため、早ければ2020年度中、そして2021年度以降にも再度大きな改正が行われる可能性が高いです。
FIT制度は2020年度が最後の年になる、と考えて単価の確保を行いましょう。
【4】再エネ主力電源化制度改革小委員会の内容のまとめ
固定価格買取制度の制度改正については、これまでは主に調達価格等算定委員会で議論が行われてきました。
今回は、あらかじめ法律で定められた3年に1度の見直しとなるためか、「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」が設置され、そこで議論が行われています。
再生可能エネルギーが制度による補助なしに自立できるようにするために設置された委員会です。
これまでに再生可能エネルギーを、今後の主力電源となって他の発電方法と競争する「競争電源」と、自家消費や災害時などに地域で活用される「地域活用電源」という2つに分ける考え方が示されました。
「競争電源」にFIP制度を適用すること、「地域活用電源」の定義と条件、そしてFIT制度を適用する方針が議論されています。
その他にも次のような内容が議論されています。
・FIT制度に替わるFIP制度の導入
・再エネ発電事業者が電気を卸売市場に売るための仕組み
・電気の買い手がいなくなった場合の対応
・インバランス(電気の需給量の調整)をどうするか
・電気の環境価値をどうするか
・標識、柵塀の設置義務違反に対してどう対応するか
・公表情報を拡大してはどうか
・廃棄費用をどう確保するか
・保険の加入を努力義務にしてはどうか
・出力の小さい再生可能エネルギーの保安をどう確保するか
・太陽光発電の技術基準の整備
・条例などによる地域との対話促進
・電力網整備にかかる費用の負担のあり方
・未稼働案件への対応
・分割案件への対応
・電力広域的運営推進機関への業務移管
非常に多岐にわたる内容です。
すでに運転開始している発電所にも影響があり得ます。
2020年1月に中間まとめについてのパブリックコメントが実施されたので、今後最終報告がまとめられると思います。
具体的な内容がどのようにまとまるか、見逃さないようにしましょう。
まとめ
この記事では、とても複雑になる2020年度の太陽光発電の固定価格買取制度について、全量売電と余剰売電という視点から解説しました。
全量買取の対象になるのは50kW以上と、条件を満たした10kW以上50kW未満のソーラーシェアリングです。
50kW未満の太陽光発電は原則余剰売電のみです。
昨年度までの流れを見る限り、予定通り2020年4月1日に実施されると思います。
これは再生可能エネルギーの買取制度全体を見直す議論の中の一部です。
まだまだ多くの内容が議論され、中間報告が出された段階です。パブリックコメントを経て議論がまとまり次第、順次施行されていくでしょう。
最後に4つのポイントを振り返ります。
①全量売電はどうなるのか
50kW以上と条件を満たすソーラーシェアリングが全量売電可能
②FIT制度の適用条件
50kW未満・・・余剰売電、災害時に活用できること
50kW以上250kW未満・・・条件なし
250kW以上・・・入札
③いつ頃実施されるのか
2020年度から実施、2021年度にも再度大きな改正が予想される
④小委員会の内容
再生可能エネルギーを「競争電源」と「地域活用電源」に分けて、それぞれに適した制度を適用する
その他10項目以上の内容が今後具体化される
未決定の部分が多いこと、過去には年度の半ばに大きな改正が実施されたことを考えると、2020年度中にも再度制度改正が行われることもありえます。
2020年度に認定を取得して売電する場合は、今後出てくる情報を見逃さないようにご注意ください。
また、FIT制度は2020年度が最後になる可能性が高いです。
建物の屋根などで余剰売電を検討している、広い土地があって全量売電するか迷っている場合は、できれば売電価格の確保だけでもしておきましょう。
2020年度の売電価格については次の記事をご覧ください。
導入が議論されているFIP制度については次の記事をご覧ください。