太陽光発電の廃棄費用の積立が努力義務になって久しくなりますが、あなたは実際に積み立てをしていますか?
実は、今回の閣議決定で2022年までに完全に義務化されることになりました。
そこで、廃棄費用に関する経緯を簡単に振り返りましょう。
※電気事業法、再エネ特措法、JOGMEC法(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法)
これまでの経緯として、2017年の改正FIT法で、事業計画認定申請時に廃棄費用の積み立て計画を立てて申請することが義務付けられました。
実際のところは20年間という長い売電期間もあって、8割以上の方が積み立てを始めていないのが実情ではないでしょうか。
そこで、この記事では、今回決まった太陽光発電の廃棄費用の外部積立についてソラサポが独自に調査した次の8つのことを解説します。
①対象となる太陽光発電は何kW?
②積立方式はどうなる?
③積立金額はいくら?
④積立の開始時期はいつ?
⑤積立金の取り戻し条件は何?
⑥積立金の取り戻せる金額はいくら?
⑦外部積立制度の開始時期はいつ?
⑧未定の重要なポイントは何?
最後まで読めば、今後導入される非常に重要な決定に備えることができます。
詳細は未定な部分も多いですが、いますぐ確認しておきましょう!
この記事は、随時更新しますので今のうちにブックマークをしておくと便利です。
1. 廃棄費用の外部積立制度の8つのポイント
この章では、太陽光発電の廃棄費用外部積立について8つのポイントを説明します。
1-1.【対象】10kW以上のすべての太陽光発電
廃棄費用の外部積立の対象になるのは、FIT法が適用されている10kW以上の太陽光発電設備です。
- 過去に認定を受けている太陽光発電もさかのぼって対象になる
- 稼働済みの太陽光発電も対象になる
- 住宅など建物屋根に設置した太陽光発電も10kW以上なら対象になる
- 余剰売電を選択していても10kW以上なら対象になる
- ソーラーシェアリングも10kW以上なら対象になる
今回の改定では太陽光発電のみが対象となっていますが、将来的には風力発電等も対象になるかもしれません。
1-2.【積立方式】源泉徴収方式
積立方式は原則「源泉徴収的な外部積立」です。
積立の開始時期になったら、毎月の売上額から積立額を天引きする形が有力です。
1-3.【積立金額①】総額は売電価格と設置規模で決まる(1.0万円~1.7万円/kW)
積立金額の総額は、売電価格(買取価格)と太陽光発電の設置規模(kW)によって決まります。
太陽光発電1kWあたりの廃棄費用の単価
1kWあたりの廃棄費用の単価は、太陽光発電の売電価格(¥/kWh)によって決められています。(下表参照)
年度 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
売電 価格 | 40円/kWh | 36円/kWh | 32円/kWh | 29円/kWh 27円/kWh | 24円/kWh | 21円/kWh | 18円/kWh | 14円/kWh |
廃棄 費用 | 1.7万円/kW | 1.5万円/kW | 1.3万円/kW | 1.2万円/kW | 1.0万円/kW |
太陽光発電の売電価格(調達価格)は、認定を取得した年度によって決まります。
廃棄費用の単価は、売電価格が高いと高くなります。
つまり、積立金額は、年度毎に想定された廃棄費用の水準となっています。
画像は太陽光発電設備の廃棄費用の確保に関するワーキンググループ中間整理より抜粋
廃棄費用の総額と積立金額の目安
2012年度と2019年度に認定を取得した場合に、積立金額がどの程度になるか具体例をご紹介します。
発電設備の規模 | 売電価格 | ||||
---|---|---|---|---|---|
2012 年度認定 (40円/kWh) | 2013〜15 年度認定 (36-27円/kWh) | 2016〜17 年度認定 (24-21円/kWh) | 2018 年度認定 (18円/kWh) | 2019 年度認定 (14円/kWh) | |
10kW | 17万円 | 15万円 | 13万円 | 12万円 | 10万円 |
20kW | 34万円 | 30万円 | 26万円 | 24万円 | 20万円 |
30kW | 51万円 | 45万円 | 39万円 | 36万円 | 30万円 |
40kW | 68万円 | 60万円 | 52万円 | 48万円 | 40万円 |
50kW | 85万円 | 75万円 | 65万円 | 60万円 | 50万円 |
同じ出力の発電設備でも、積立て費用は1.7倍の差が出ることになります。
1-4.【積立金額②】毎月の積立額は毎月の発電量で決まる
積立ては、売電収入から差し引かれる形になる予定です。
毎月の積立額は、月ごとの売電量に応じて決まる方針です。
一定額が引き落とされるのではありません。
なぜなら、定額の引き落としにすると、次のような問題が発生するためです。
・電力会社や配送電事業者の大規模なシステム改修が必要になる
・設置者としては売電収入の少ない月のやりくりが大変になる
・売電収入が積立額を下回った場合に差額調整が必要になる
積立額は、月ごとの売電量に応じて決まるので、想定の積立総額とは差が出ます。
極端に差が出る場合は調整が必要ですが、具体的にどう調整するか未定です。
1-5.【外部積立の開始時期】売電期間(調達期間)の終了前10年間
外部積立の開始時期は、売電開始から10年経過したタイミングです。(一律で終了前10年間の積み立て)
売電期間が短縮されている場合、例えば19年と6ヶ月になっている場合は、売電期間(調達期間)の終了前の10年間が積み立て期間となります。
RPS法や余剰買取制度など、2012年より前から売電していてFIT制度に移行した太陽光発電の場合は、残りの売電期間が10年に満たない場合があります。
そのような場合は外部積立制度が開始された時点で積み立てが始まり、売電期間が終了する月で積み立て終了となります。
1-6.【積立金の取り戻し条件】詳細未定
廃棄費用の積立金は、原則売電期間中に取り戻すことができません。
20年後積立金を取り戻すために、廃棄処理が確実に見込まれる資料の提出が必要とされています。
具体的にどのような資料が必要かは未定です。
また、売電期間中でも太陽光発電事業を終了する場合や縮小する場合には、廃棄される太陽光パネルの量によって取戻しを認められます。
具体的な太陽光パネルの量の基準や手続きは未定です。
売電期間終了後発電事業を続ける場合に、一部設備を交換したり、廃棄するとなったら条件付きで取戻しが認められます。
太陽光パネルの割合や量が一定値を超える場合のみの措置ですが、こちらも基準や手続きは未定です。
1-7.【取戻せる金額】積立てた金額が取り戻せる
発電所全体を廃棄する場合、積立てた金額全額が取り戻せます。
実際にかかる廃棄費用とは関係ありません。
発電所を縮小する場合や、売電期間終了後に設備を更新する場合は太陽光パネルの割合に応じて取り戻せます。
太陽光パネル以外の設備更新(パワコンやフェンス、防草シートの交換など)に関しては、これから議論される予定です。
1-8.【制度の開始時期】2022年7月までに開始される
制度の開始時期は、2022年7月までに開始されます。
固定買取価格制度が開始したのが2012年7月からなので、制度開始当初の太陽光発電設備も売電期間が10年間残っているうちに始めるということです。
1-9. 【外部積立の例外】内部積立に必要な6つの条件とは
公開された資料では例外的に内部積立を許可されるとされています。
廃棄費用の外部積立制度を検討しているワーキンググループの中間報告を見る限り、6つの条件を満たすことが条件となります。
① 50kW以上(高圧)の発電所であること
② 発電事業者が電気事業法上の発電事業者であること
または1MW以上で発電量の50%以上売電していること
③ 外部積立の場合と同額以上の積み立てを予定し、公表に同意すること
④ 毎年の運転費用報告時点で、外部積立の場合と同額以上積立てて、公表に同意すること
⑤ 金融機関によって廃棄費用の積み立てが可能なことが定期的に確認されていること
または会計士によって監査された所定の財務諸表が開示されていること
⑥ ①~⑤の条件が満たせなくなったら、即座に外部積立に移ること
ほとんどの方が条件を満たすことが難しいでしょう。
満たせたとしても、外部積立以上の積み立てを求められるため、あまりメリットはありません。
2. まだ決まっていない重要なポイント
今回の閣議決定では、外部積立の実施が決定しましたが実務上必要な詳細部分は未定です。
その中でも未定の重要なポイントについて、ワーキンググループ※の中間整理を基にご紹介します。
今後決まり次第更新します。
※太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ
2-1. 積立金取戻し時の具体的な書類と審査
積立金取戻し時に必要な、具体的な書類と審査については未定です。
ワーキンググループでは次のように提言されています。
積立金の取戻しの際には、廃棄等が確実に実施されると見込まれる資料の提出を求めるとともに、積立金の流用を防止するための措置を併せて講じる。
総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ中間整理より引用
廃棄等が確実に実施されると見込まれる例として、解体事業者との間で契約書が締結されている場合が挙げられています。
また、廃棄を実施したと確認できる資料の提出も求め、適切な廃棄等ができていない場合は管理機関に返還を求めることも提言されています。
2-2. 積立金を取り戻せる具体的な基準
ワーキンググループでは長期的、安定的な発電事業を促すために、太陽光パネルの一部を交換・廃棄するような場合にも一定の条件下で積立金の取戻しを認めるよう提言しています。
例えば次の様な例です。
・発電所を縮小する場合
・売電期間終了後に設備更新する場合
上記2つで太陽光パネルの容量を基準に一定の割合を超える場合
太陽光パネルの容量で何%以上廃棄や交換する場合が対象になるかは決まっていません。
また、パワーコンディショナー(パワコン)やフェンス、防草シート、架台といった、パネル以外の物だけを廃棄、交換する場合についても未定です。
2-3. 積立金の管理機関
1兆円規模の積立金を管理する機関はまだ決まっていません。
ワーキンググループでは、外部積立を義務付けている他の積立金の管理機関に設けられている規定などを参考に、同じような業務を専門とする事業者との提携も視野に入れて費用かつ合理的な規制内容を検討するよう求めています。
3. 他にも重要な変更が実施される
法律で決められていた再生可能エネルギー買取制度見直しの時期ともあって、今回の改正案では他にも重要な変更が盛り込まれています。
他にどんな変更が盛り込まれているか、簡単にご紹介します。
3-1. FIP制度の導入が決まった
市場連動型の導入支援として、FIP制度の導入が盛り込まれました。
対象となる発電方法や規模、導入時期等まだまだ未定のことが多いですが、導入自体は確定したといえるでしょう。
FIP制度については次の記事で詳しく解説しています。
3-2. 新たな賦課金を創設する
再生可能エネルギーを導入するために、これまでも送電網の増強が行われてきました。
主に地域の送配電事業者が負担していましたが、一部を賦課金方式で賄う制度が盛り込まれました。
再エネ特措法上の賦課金方式と想定されているため、さらに電気代が上がると予想できます。
3-3. 太陽光発電の未稼働案件に「失効期限(認定取り消し)」をつける
今回新たに、「失効期限(認定の取り消し)」が設けられました。
目的は、系統容量の適切な開放とされています。
失効となると、せっかく確保した売電単価は取り消しとなり、売電するためにはもう一度認定を取り直す必要があります。
高い売電単価を持つ太陽光発電の未稼働案件については、みなし認定による失効や運転開始期限の付与、連系工事着工申込書の提出といった対策が取られてきました。
なお、現在残っている未稼働案件は、運転開始期限を超過した場合のペナルティ(月単位で売電期間が短縮)がついています。
まとめ
最後に、7つのポイントを振り返ります。
①対象となる太陽光発電は、10kW以上で固定買取価格制度を活用しているもの
②積立方式は、源泉徴収方式で、毎月の売電収入から天引きが有力
③積立金額は、調達価格算定委員会が売電単価を決める際に想定していた金額
④積立の開始時期は、売電期間終了前の10年間
⑤積立金の取り戻し条件は、廃棄処理が確実に見込まれる資料の提出
⑥積立金の取り戻せる金額は、積立てた金額
⑦外部積立制度の開始時期は、遅くとも2022年7月
今回の改正案で、10kWの太陽光発電設備は、売電期間の後半10年間、売電収入から天引きで廃棄費用を積み立てることになります。
実際に廃棄や設備更新する際は、今後決められる手続きを経て、積立てた廃棄費用を取り戻します。
売電期間後半10年間の売電収入は、源泉徴収される分を見込んで運用を考えましょう。
その他にもFIP制度の導入や新たな賦課金の創設、失効期限の設定という大きな変更も盛り込まれています。
これから太陽光発電を始める人、単価を確保している人には大きな影響がある変更です。
いずれも閣議決定し、これから国会審議という段階なので、具体的な内容は未定です。
今後公開される情報を見逃さないようにしましょう。