2020年4月1日に太陽光発電の事業計画策定ガイドラインが改訂されました。
事業計画策定ガイドラインは、2017年に策定されて以来、3回目の改訂です。
過去からの流れを振り返るとこのようになっています。
・10kW以上50kW未満に地域活用要件を設定
・保険加入の努力義務化
・太陽光発電の環境配慮ガイドラインを参考資料に追加
『事業計画策定』という言葉では、これから設置する設備を対象とするものだと誤解されがちですが、実は毎回、稼働済みや認定取得済みの太陽光発電にも大きな影響がある内容となっています。
つまり、発電所設置当時は、なかったルールが後から追加され、さかのぼって適用されることになります。
違反すると行政指導の対象となることも多いため、しっかり理解しておく必要があります。
そこで、この記事では、次の2つのことを解説します。
①事業計画策定ガイドラインの主な4つの変更点
・廃棄費用の外部積立化(予定)
・10kW以上50kW未満に地域活用要件を設定
・保険加入の努力義務化
・太陽光発電の環境配慮ガイドラインを参考資料に追加
②変更による影響
記事を最後まで読み実行すれば、知識不足による設備の違反状態を回避できるようになります。
ぜひ、変更点を見落とさずに、どのような対応が必要か確認しておきましょう。
そして、お知り合いの太陽光発電オーナーにも教えてあげてください。
1. 2020年度版の主な変更点4つ
2020年度の改訂では、大きな変更点が4つあります。
①廃棄費用を外部積立に切り替える予定が明記された
②10kW以上50kW未満に地域活用要件が設定された
③保険への加入が努力義務化された
④太陽光発電の環境配慮ガイドラインが参考資料に加えられた
①、②はすでにニュース等で公開されている内容ですが、新しい情報も追加されています。
③、④は新たに出てきた内容です。それぞれ解説します。
1-1. 廃棄費用の外部積立(11年目から源泉徴収方式)
廃棄費用の外部積立が、2027年度7月までに実施予定という形で明記されました。
※今後、再エネ特措法に基づく認定を受けた 10kW 以上の全ての太陽光発電事業を対象に、2022 年 7 月までの適切な時期において、原則として売電収入から廃棄等費用を源泉徴収的に差し引き、外部機関に積み立てることを義務付ける新たな制度が適用される予定となっている。
2020年4月改訂 事業計画策定ガイドライン(太陽光)P34より
これまで、制度変更の予定が明記されることはありませんでした。
外部積立制度の施行時期は明確に決まっていませんが、廃棄費用の外部積立は決定と考えてよいでしょう。
外部積立について詳しい内容は次の記事をご確認ください。
1-2. 10kW以上50kW 未満に地域活用要件の設定(自家消費、自立運転)
10kW以上50kW未満に地域活用要件を設定することが、事業計画策定ガイドラインでも明記されました。
地域活用要件とは、電力の地産地消を進めるという方針と、災害時に電気が活用できるようにして復旧の助けにするという方針に基づいた条件を付ける代わりに買取制度を適用するという考え方です。
① (前略)発電電力量の少なくとも 30%の自家消費を行うこと。(中略)〔再エネ特措法施行規則第 5 条第 1 項第 9 号の 2、第 5 条第 2 項第 5 号の 2 イ〕
② 災害時に活用するため(中略)給電用コンセントを有し、当該給電用コンセントの災害時の利活用が可能であること。〔再エネ特措法施行規則第 5 条第 2 項第5 号の 2 ロ〕
2020年4月改訂 事業計画策定ガイドライン(太陽光)P31より
地域活用要件の内容はこちらの記事で解説した内容の通りです。
事業計画策定ガイドラインでは、より詳細な内容が明らかになりました。
自家消費計画の内容が一部明らかになった
認定申請時に提出する自家消費計画として、次の内容が必要になります。
(1)当該再エネ発電設備による発電電力量の見込み(年間ベース)
(2)自家消費等の用途・量の見込み(年間ベース)
(3)(1)と(2)に基づいて計算される自家消費等の比率(年間ベース)
(4)既築建物の場合、前年(認定申請から遡って 1 年間)の電力消費量
既築建物の場合は過去の電力消費量も認定申請時に提出することになります。
30%の自家消費ができない場合は認定取り消しもありえるので、余裕を持った計画を立てましょう。
5つの具体的な条件が新たに明記された
2月の資料にはなかった具体的な条件が5つ明記されました。
追加条件①:電気料金請求書や検針票を、少なくとも3年以上保存すること
追加条件②:監視装置やパワコンの機能、写真を使って発電量を記録し、少なくとも3年以上保存すること
追加条件③:合計で10kW以上のパワコンに自立運転機能がついていること
追加条件④:1.5kW以上の自立運転出力を備えていること(単相、三相は問わない)
追加条件⑤:営農型(ソーラーシェアリング)の場合、認定から3年以内に農地転用許可が下りなければ認定取り消しとする
追加条件①と②は、自家消費の割合を確認するために必要な資料です。
追加条件③と④は、災害時に電気を活用するために必要な設備です。
いずれも最低限の条件です。
今後、資料の保管期間が延びる可能性がありますし、すべてのパワコンに自立運転機能およびコンセントの設置が義務付けられる可能性もあります。
追加条件⑤は、営農型(ソーラーシェアリング)にだけ付け加えられた条件です。
農地転用に必要な期間を見越して認定を取得しましょう。
テレビや冷蔵庫、携帯電話の充電器といった家庭内で使用する家電は、一般的に単相にのみ対応しています。
三相の電気が流れているコンセントでは使えません。
自立運転用のコンセントを設置する場合は、単相で設置するように設置業者と相談しましょう。
1-3. 保険加入の努力義務化(将来的な順守義務化も明記)
自然災害に対処するために、火災保険や地震保険等への加入が努力義務になりました。
② 出力 10kW 以上の太陽光発電設備の場合、(中略)火災保険や地震保険等に加入するように努めること。
(中略)災害等により、発電事業途中での修繕や撤去及び処分が発生する場合には、各太陽光発電事業者による保険加入等により手当てされることとなる。(後略)2020年4月改訂 事業計画策定ガイドライン(太陽光)P33より
廃棄費用として積み立てるお金は事業終了時の廃棄に必要な費用を賄うためです。
災害時の補修や撤去は、保険でまかなうことが前提となります。
さらに、将来的には保険の加入が順守義務になる可能性があります。
また、今後、保険料の水準を含めた努力義務化の影響を見極めながら、遵守義務化の検討を進めることとされている点に留意が必要である。
2020年4月改訂 事業計画策定ガイドライン(太陽光)P34より
台風などで強風が吹くと、外から飛んできた飛来物でパネルが割れることもあります。
義務のあるなしにかかわらず、万が一のために保険に加入しておくことをお勧めします。
1-4. 環境省による「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」の策定
これまでの改訂で、地域への配慮や協調、対話の重要さが追記されてきました。
今回の改訂でも同様に、自治体や住民への理解を深めることを求める内容が追記されています。
(略)太陽光発電の環境配慮ガイドライン(環境省)等を参照し、地域住民と適切なコミュニケーションを図ることが重要である。
2020年4月改訂 事業計画策定ガイドライン(太陽光)P11より
環境省が作成した「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」が新たに参考資料として追加されました。
自治体や地域住民との対話、環境について配慮すべき項目をチェックシート付きで公開しています。
これまで文面で記載されていた地域に配慮した発電所の設計や地域への説明・対話といった内容が、チェックできる形に整えられました。
わかりやすく形が整えられたため、無視してしまうと問題が発生した場合に指摘される可能性があります。
どこまで配慮すべきかは地域性やコストによって異なりますが、内容を確認しておきましょう。
1-5. その他の細かい変更点
この章で解説した4つの変更点以外にも細かい変更が加えられています。
変更点の例
・「FIT法」という表記を「再エネ特措法」に変更した
・環境アセスメントの根拠に「環境影響評価法」を追加した
・環境アセスメント対象案件の運転開始期限を一覧表で記載した
詳細を知りたい方、原本を確認したい方は事業計画策定ガイドラインをご確認ください。
2. 4つの変更点による影響
4つの変更点からどのような影響が出るかまとめました。
2-1. 廃棄費用の外部積立|売電収入から廃棄費用が天引きされるようになる
廃棄費用の外部積立は稼働済み太陽光発電も対象です。
対象となる設備・・・固定価格買取制度(FIT)で売電しているすべての10kW以上の太陽光発電
外部積立制度の開始時期・・・遅くとも2022年7月
積立ての開始時期・・・運転開始から11年目に入った月
外部積立制度の開始時期が遅くとも2022年7月となっているのは、FIT制度が開始したのが2012年7月だからです。
FIT制度で売電しているすべての発電設備が、運転開始して11年目から天引きされることになります。
制度が開始されたら、11年目から毎月発電量に応じて積立金が売電収入から差し引かれます。
毎月の積立金計算方法が確定した時点で、一度収支計画を見直しましょう。
2-2. 地域活用要件|新規認定を取る10kW以上50kW未満は余剰売電+自立運転機能が必須になる
地域活用要件は、2020年4月1日以降に認定を取得する場合に必要な条件です。
稼働済みや、未稼働の認定案件には影響はありません。
10kW以上50kW未満で新しく認定を取得する場合は満たす必要があります。
工場や住宅の屋根にはできる限りの容量を設置するという考え方から、30%以上使用できるという根拠を持った容量で設置するという考え方に変える必要があります。
特に住宅の場合、日中は外にいて朝方と夜電気を使うことが多いため、太陽光発電の自家消費量は思ったより伸びません。
単純な年間の電気消費量ではなく、昼間の電気消費量で考えることが必要です。
農水省の条件をクリアできるソーラーシェアリングは全量売電も可能
10kW以上50kW未満のソーラーシェアリングは条件付きで全量売電が可能です。
条件はつぎの3つです。
・10年間の一時転用許可が見込める
・自立運転機能を有するPCSを設置する
・自立運転用コンセントを設置して、災害時に使用できるようにする
通常3年間の一時転用許可が10年となるには、農水省の条件をクリアする必要があります。
詳しくは下記の記事中の「【1-4】10kW以上50kW未満で一時転用期間10年のソーラーシェアリングは緩い地域活用条件で全量売電が可能!」をご確認ください。
2-3. 保険加入の努力義務化|稼働済みの太陽光発電でも保険加入が必要になる
保険の加入は運転開始済みの太陽光発電も対象になります。
努力義務なので、加入しなくても罰則はありません。
ただし、順守義務化される可能性があります。順守義務化されたら加入しなければなりません。
自然災害などによる故障も実際に起きています。
義務化に関係なく、加入することをお勧めします。
2-4. 太陽光発電の環境配慮ガイドライン|未稼働の太陽光発電は、設置までの記録が大切になる
太陽光発電の環境配慮ガイドラインは参考資料の一つです。
順守義務はありません。やっていなかったからと言って、罰則のあるものではありません。
しかし、わかりやすいチェックシートが整えられたため、トラブルがあった際に指摘される可能性があります。
また、条例や法律の規制があるか確認する、標識を設置するなど、事業計画策定ガイドラインで義務となっていることも記載されています。
トラブルを避けるために必要なことを見落としていないかの確認に使えるチェックシートなので、活用しましょう。
トラブルが起きた際に配慮や対応していることを証明できるようにしましょう。
まとめ
2020年4月の事業計画策定ガイドライン改訂は、4つの点で大きな変更がありました。
①廃棄費用を外部積立に切り替える予定が明記された
②10kW以上50kW未満に地域活用要件が設定された
③保険への加入が努力義務化された
④太陽光発電の環境配慮ガイドラインが参考資料に加えられた
2020年度の制度改正が反映されたのも大きな変更ですが、予定が明記されたのは初めてのことです。
外部積立や保険加入の順守義務化は必ず実施されると考えましょう。
義務化が実施されたら、稼働済み太陽光発電にも2つの影響が出ます。
・運転開始して11年目以降、売電収入から廃棄費用が天引きされる
・保険料を支払うことになる
収支計画に見込んでいない場合は、廃棄費用や保険料を組み込んで再計算しましょう。