2017年4月の改正FIT法で、低圧(50kW未満)の太陽光発電のメンテナンス(保守点検・O&M)が義務化されました。
もちろん、ご自宅(住宅)の屋根に設置した太陽光発電も対象です。
なんとなく「メンテナンスは必要だろうなぁ」とお考えでも具体的にどんなメンテナンスをしたら良いのかわからずお困りの方も多いのではないでしょうか。
実は、資源エネルギー庁が公開した「事業計画策定ガイドライン(pdf)」では、民間のガイドラインと同等以上の内容と頻度で実施するよう求めています。
「民間団体が作成したガイドライン(付録参照)を参考にし、これらと同等又はこれら以上の内容により、着実に保守点検及び維持管理を実施するように努めること。」
資源エネルギー庁(2017年3月)事業計画策定ガイドライン P21より
参考資料の「太陽光発電システム保守点検ガイドライン(pdf)」は、専門用語ばかりで読むのも大変です。
必要な情報にもなかなか辿り着けない方も多いようです。
そこでこの記事では、10kW未満の太陽光発電に絞って、次の4つのポイントについて丁寧に解説していきます。
【概要】太陽光発電システム保守点検ガイドラインの概要
【内容】太陽光発電で義務化されたメンテナンスの具体的な内容
【頻度】メンテナンスはいつ実施すれば良いか
【費用】どれくらいの費用が必要か
最後まで読んでいただければ、必要な内容がおわかりいただけると思います。
必要な内容や費用を把握しておくことで、業者のいいなりに全く関係のないメンテナンス費用を払うこともなくなるでしょう。
そうなれば、メンテナンスの依頼内容も過不足なく発注できるようになるはずです。
安全と安心を前提に太陽光発電を使用するためにも、ぜひ最後までお付き合いください。
1. 一覧表でわかる義務化されたメンテナンスの概要
この章では、義務化されたメンテナンスの概要として、いつ、何をどのように点検し、いくらぐらい費用がかかるのかをご紹介します。
1-1. 義務化されたメンテナンスの概要・一覧表
義務化されたメンテナンスとして、何をする必要があって、いくらぐらいかかるのでしょうか?
まずは、こちらのまとめでざっくりと全体像を掴みましょう。
次に、もう少し詳しく気になる点検時期、費用と内容の目安を一覧表にまとめました。
項目 | 解説 | 解説 |
---|---|---|
【責任】誰に義務があるか | 発電設備の持ち主(所有者) ※設置業者ではありません | |
【時期】いつ点検するのか(頻度・時期) | 設置後1、5、9、13、17、21年目(4年に1回) | 2章 |
【設備】何を点検するのか | 太陽光パネル、パワコン、架台、ケーブル等の構成機器 | 3章 |
【方法】どう点検するのか | 目視、測定、操作 | 3章 |
【費用】いくらぐらいかかるのか | 目安5万円前後 ※設置場所や業者によって異なります | 4章 |
【罰則】義務に違反したらどうなるのか | 指導・助言、改善命令、認定取り消し(売電単価の取り消し)の対象になる | 5章 |
【規則】義務化という根拠は何か | 改正FIT法、事業計画策定ガイドライン(pdf) | 1-2. |
【規則】頻度や方法の根拠は何か | 太陽光発電システム保守点検ガイドライン(pdf) | 6章 |
頻度・時期は太陽光発電システムの設置状況やそれまでの点検結果によって変わります。
費用は太陽光発電の設置場所や規模によって異なります。
本記事では、これらの目安が何によって決められているのか、より詳しい内容をご紹介していきます。
1-2. メンテナンス義務化の根拠は2つ|改正FIT法と事業計画策定ガイドライン
メンテナンス義務化の根拠は2つあります。
①改正FIT法
旧FIT法では、運転開始後の保守管理について規定がありませんでした。
50kW以上の太陽光発電には、電気事業法など関連する法律で専門家による保守管理が義務付けられていました。
50kW未満の低圧の場合は関連する法律での義務づけもなく、保守管理のノウハウがまだ確立されていなかったこともあって、故障や不具合の発見が遅れる、放置されるという状態がありました。
そこで、改正FIT法で50kW未満の太陽光発電にもメンテナンスが義務化されました。
②事業計画策定ガイドライン
一般向けの資料で、メンテナンスが義務であることを示したのが事業計画策定ガイドラインです。
1-3. メンテナンスの目的と義務の内容
義務化されたメンテナンスの目的は2つです。
・安全の確保(保安)
・発電性能の維持(保守)
2つの目的を達成するために、次の4つが義務として示されています。
・メンテナンスの計画を立てること
・計画通り実施するための体制を作ること
・計画通りにメンテナンスを実施すること
・実施した記録を保管すること
メンテナンスするだけでなく、記録を保管することも義務です。
実施してはい終わり。と考えないでください。
1-4. 参考資料として示された「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」
メンテナンスの参考資料として挙げられたのが、「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」です。
実際の運用上は、「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」に従うことになります。
太陽光発電を「どのように点検しなければならないか」をまとめた技術資料で、
太陽光発電協会(JPEA)と日本電機工業会(JEMA)の共同名義で発行されました。
どちらも民間の組織であるため、法律上最低限必要なメンテナンスと頻度の基準を断定する立場にありません。
そのため、「一般的な例」としてメンテナンスの頻度と点検項目の目安を記載しています。
この一般的な例が、最低限必要なメンテナンスの頻度と点検項目と言えます。
より詳しく知りたい方は「6. 太陽光発電システム保守点検ガイドラインとは」をご覧ください。
2章からは、義務化されたメンテナンスをより詳しく解説します。
2. 点検時期と頻度の目安
第2章では点検時期と頻度の目安について解説します。
2-1. 時期と頻度は最低限の目安
太陽光発電設備は設置場所や地域、使用している部材などで劣化具合やトラブルの原因が異なります。
雷の多い地域では、停電が主なトラブルになります。
海岸沿いの設備は、内陸部よりも潮風によって錆びやすくなるでしょう。
劣化やトラブルが多いとわかっている場合は、通常よりも高い頻度で点検する必要があります。
保守点検ガイドラインでは点検時期と頻度は「目安」になっています。
目安の頻度は最低限と考えて、発電所ごとに調整する必要があります。
2-2. 最低限の点検頻度は4年に1回
最低限の点検頻度の目安は、設置後1年目、5年目、9年目、以降は4年に1回が目安です。
点検時期ごとに、目的も明らかにされています。
1年目に行うのは、初期不良発見のためです。
点検時期の目安 | 点検の目的 |
---|---|
設置1年目点検 | 初期不良の発見 |
設置5年目点検 | 劣化・破損状況の確認 |
設置9年目以降点検(4年に1回) | 劣化・破損状況の確認 メーカー保証期間の確認 消耗部品の交換 |
設置20年目以降点検(4年に1回) | 劣化・破損状況の確認 設備を交換する時期の検討 |
太陽光発電システム保守点検ガイドライン35ページより
太陽光発電の機器保証は10年で切れるものが多いため、9年目には保証期間の確認が必要になります。
出力保証も20年前後で切れることが多いため、劣化や故障など不具合があれば交換を考える必要があります。
点検結果は次回の点検時期や内容を調整する資料になります。
必ず手元で保管しましょう。
2-3. メンテナンスの頻度を調整する要因
どんな環境に置かれているかによって、太陽光発電設備の劣化具合や故障しやすさは異なります。
設置業者やメンテナンス業者と相談の上で、設置者が次回メンテナンスの時期を判断することになります。
点検頻度を調整する要因 | 具体的な条件 |
---|---|
気候 | 大雨 落雷 強風 積雪 湿度 気温差 |
周辺環境 | 腐食環境(海風、火山灰など、金属が腐食しやすい環境) 小動物(ネズミ、虫など) 植物(敷地内や隣地の雑草、樹木) 土壌(排水条件) 周りの土地との高低差(水の溜まりやすさ) 設置場所と周囲の地形(風の受けやすさ) 建物、植物など環境の変化 |
機器保証・メーカーによる指定 機器の機能 | 製造業者による指定 機器に保存されたエラー履歴 |
施工上の条件 | 当初の設計 部材選定 部材に特に負荷のかかる箇所 |
前回の点検結果 | 測定結果 不具合・故障の記録 劣化具合の比較 |
故障しやすい場所に設置した発電所、過去に故障があった発電所は、目安よりも高い頻度で点検しましょう。
3. 最低限必要なメンテナンスの対象と内容
この章では、最低限必要なメンテナンスの対象と内容をより具体的にご紹介します。
3-1. メンテナンスする機器と点検方法
メンテナンスの対象となるのは7つの機器です。
目視、測定、操作という3種類の方法で点検します。
7つの機器は次の通りです。
・太陽光パネル(モジュール)
・架台
・パワーコンディショナ
・接続箱、集電箱
・配線
・ブレーカー(開閉器、漏電遮断器)
・電力量計(メーター)
点検の方法は次の3種類です。
「目視」 | |
「操作」 ・扉、蓋など開閉できるか ・スイッチで正しく停止するか ・停電時の安全装置は作動するか など、緊急時にも問題なく操作できるかを点検する | |
「測定」 ・カタログ通りの電気が流れているか ・電気が漏れていないか ・異常な発熱はないか など性能が低下していないか、安全に問題がないかを点検する |
故障などなく安全であること、発電機能が損なわれていないこと、そして非常時の安全装置などが正しく使えることを3種類の方法で確認します。
点検内容をより細かく分けると点検項目は51項目になります。
3-2. 太陽光発電システムの機器と保証書、過去の点検結果などの資料も点検の対象
意外と知られていないことですが、メンテナンスの対象は太陽光発電を構成する太陽光パネルや架台、ケーブルなどの機器だけではありません。
メーカーの保証書や、過去の点検結果という紙の資料も、点検対象です。
万が一故障があった場合、対応できるようになっているか。
前回点検時からの変化を確認できるようになっているか。
このような点で、紙の資料も正しく記録し、保管してあることが大切です。
3-3. 点検要領(項目)例の一覧表
点検要領(項目)例一覧表を抜粋しました。
※ 10kW以上の点検要領(項目)一覧表はこちらをご覧ください。
適用が20年目となっている点検項目でも、設置状況によっては前倒しで点検しましょう。
配線に直射日光が当たっている、古い建物なので雨漏りが心配などありましたら、点検前に相談する事をお勧めします。
3-4. 太陽光パネルの洗浄は義務化されていない
太陽光パネルの洗浄は、義務化されていません。
数多くの問い合わせが寄せられていますが、発電量の回復に役立ちそうならやりましょう。
詳しくは次の記事をご覧ください。
4. メンテナンスにかかる費用の目安
4-1. メンテナンスにかかる費用は設置状況や規模で異なる
発電設備の設置状況や規模などで、メンテナンス費用は異なります。
点検にかかる時間や安全対策が、屋根の角度や設置枚数によって異なるためです。
専門業者に頼む場合、資料の点検なども含め5万円程度かかると考えましょう。
経産省の調べでは、10kW未満の場合は点検1回で2万円程度となっています。
太陽光発電協会などへの聞き取り調査 2万円程度/点検1回
運転費用報告のデータ(パワコン修理費を含む1年間の平均メンテナンス費用) 2,869円/kW(設置容量)
調達価格等算定委員会(2018.2.7)「平成30年度以降の調達価格等に関する意見」P.7より
4-2. 別途かかる費用
足場代 壁一面に対して+8万円程度
屋根上に設置された太陽光パネルの汚れや破損をみるために、足場が必要になります。
車庫上や陸屋根など、角度のない屋根でなければ基本必要な費用と考えましょう。
足場を組まない場合、どのようにして屋根上のパネルや架台を目視点検するのか確認が必要です。
大まかな目安として、足場を一面に設置する場合、8万円前後の費用が必要となります。
足場代を節約する方法
足場の費用はメンテナンスそのものよりも高額になることがあります。
どうしても足場が必要な場合は、外壁の塗装や屋根の葺き替えなど、建物の補修と合わせて実施しましょう。
不具合発見時の修理費
メンテナンスで不具合が見つかった場合、応急処置以上の修理は別費用になります。
不具合の内容によって、必要となる費用は異なります。
保証や保険の対象となる場合もあります。
不具合の内容や応急処置としてどうしたかの記録を受け取り、保証や保険の対象となるか確認しましょう。
最低限のメンテナンス以外は別費用
太陽光パネルの洗浄や、パネル1枚単位での点検といった最低限以外のメンテナンスは別費用になります。
基本の点検とは使用する道具も違うため、事前準備から変わります。
「こんなことも見てほしい」とその場で言われても対応できないこともあります。
対応できたとしても、費用面でのトラブルになりかねません。
事前に点検内容を確認して、希望があれば伝えておきましょう。
5. 義務化されたメンテナンスをしない場合の罰則
この章では、義務化されたメンテナンスをしない場合どうなるのかを紹介します。
メンテナンスのそもそもの目的は、太陽光発電設備を安心・安全のもと運用していく事です。
罰則の有無で判断するのはおすすめしません。
5-1. 改正FIT法に基づいた罰則の対象|最悪の場合、売電中止(認定の取り消し)になる
メンテナンスを実施しない場合、改正FIT法に基づいた罰則の対象になります。
罰則の対象となると、最悪の場合、認定取り消しで売電できなくなる可能性があります。
事業計画策定ガイドラインでは、メンテナンスの実施を遵守事項に、民間のガイドラインと同様以上の内容・頻度については努力義務にしています。
遵守を求めている事項に違反した場合には、(中略)FIT法第12条(指導・助言)、第13条(改善命令)、第15条(認定の取消し)に規定する措置が講じられることがある(中略)。なお、努力義務として記載されているものについても、(中略)FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある。
事業計画策定ガイドライン(2018年4月改定)P3より
メンテナンスしていても、民間のガイドラインと同等以上と認められなければ指導される可能性があることにもご注意ください。
5-2. メンテナンス実施の確認は状況によって変わる
2018年5月の時点で、経済産業省や資源エネルギー庁がメンテナンスの実施状況を確認に来ることはありません。
ただし、あまりにも手入れされていない発電所が増えたとなると、現地確認を行う可能性もあります。
資源エネルギー庁は、太陽光発電の運営にかかった費用と項目を「運転費用報告」という書類で把握します。
何年も保守点検を行なっていない発電所があまりに多い、メンテナンスを行えば防げたトラブルの報告があまりに多い、という状況になったら、確認作業も検討されるそうです。
運転費用報告については次の記事で解説しています。
6. 太陽光発電システム保守点検ガイドラインとは
この章では、メンテナンス内容の根拠となる、太陽光発電システム保守点検ガイドラインを紹介します。
より詳しく専門的に知りたい方は読み進めてください。
6-1. 太陽光発電システム保守点検ガイドラインの概要
太陽光発電システム保守点検ガイドラインは、事業計画策定ガイドラインで、保守点検や維持管理について参考にするよう指定されている資料です。
太陽光発電のメンテナンスを実施する際に、どのようにやれば良いのかを記載した専門家向けの「技術資料」です。
完工時に揃えておくべき資料から点検終了後に作成する報告書の扱いまで網羅されています。
太陽光発電協会(JPEA)と日本電機工業会(JEMA)で共同作成され、2016年12月28日に公開されています。
6-2. 最低限のメンテナンス内容や頻度の目安となる資料
太陽光発電システム保守点検ガイドラインは、民間で作成された資料です。
そのため、ガイドラインの中ではメンテナンス内容と頻度は基準ではなく目安と表現されています。
事業計画策定ガイドラインで「民間のガイドラインと同等かそれ以上」の点検を行うように示されています。
2018年現在、他に参考となるものがない以上、保守点検ガイドラインの目安が実質最低限の基準となります。
6-3. 原本を読んでみるなら附属書Bと【解説】の「5.3 日常点検」
非常に難しい資料ですが、原本を確認しておきたい場合は「附属書B(参考)定期点検要領の例」を読むのがおすすめです。
点検時期と目的、点検箇所ごとに何を見るの例が一覧表となっています。
点検結果欄を付け加えればそのまま報告書にできる一覧表です。
太陽光発電保守点検ガイドライン本文では日常点検を扱っていませんが、附属している【解説】で日常点検を扱っています。
発電設備が近くにあって、目視点検を自分で行なっている人は【解説】の「5.3 日常点検」も読みましょう。
6-4. 点検内容の規定を知りたい方への関連資料
点検内容の細かい規定を知りたい方への関連資料をご紹介します。
・JIS C 60364-6
JIS規格 低圧電気設備−第6部:検証
低圧の電気設備について、正しく設置されているか、安全性に問題はないかなど確かめる「検証」の規格です。
・電気設備の技術基準の解釈
第2章で、主に高圧の設備について安全のためにどのような施設が必要かが記載されています。
2017年8月の改正で、野立て架台の標準仕様が追加されました。
・電気設備の技術基準の解釈の解説
名前の通り、電気設備の技術基準の解釈をより具体的に解説した資料です。
まとめ
最後にもう一度、義務化されたメンテナンスの概要一覧表を再確認しておきましょう。
項目 | 解説 |
---|---|
【責任】誰に義務があるか | 発電設備の持ち主(所有者) ※設置業者ではありません |
【時期】いつ点検するのか(頻度・時期) | 設置後1、5、9、13、17、21年目(4年に1回) |
【設備】何を点検するのか | 太陽光パネル、パワコン、架台、ケーブル等の構成機器 |
【方法】どう点検するのか | 目視、測定、操作 |
【費用】いくらぐらいかかるのか | 目安5万円前後 ※設置場所や業者によって異なります |
【罰則】義務に違反したらどうなるのか | 指導・助言、改善命令、認定取り消し(売電単価の取り消し)の対象になる |
【規則】義務化という根拠は何か | 改正FIT法、事業計画策定ガイドライン(pdf) |
【規則】頻度や方法の根拠は何か | 太陽光発電システム保守点検ガイドライン(pdf) |
目安として4年に1度、太陽光発電設備全体を、目で見て、きちんと発電しているか測定して、いざという時停止できるか操作して点検する必要があります。
点検結果を保管することで、正しい判断がしやすくなるので記録も必要です。
義務化されたメンテナンスを実施しないと、最悪の場合は認定取り消しとなります。
太陽光発電のメンテナンスの目的は安全確保と発電性能の維持です。
義務化されていなくても、事業計画通りの利回りを維持するためには必須のものです。
正しく実施して、発電事業を最後まで計画通りに実施しましょう。
メンテナンスでお困りの場合は、ぜひソラサポにお声がけください。