2018年5月15日に農林水産省から、営農型太陽光発電設備(ソーラーシェアリング)について大きな発表がありました。
一定の条件を満たせば、架台部分の一時転用許可の期間を最長3年から最長10年に延長する、というものです。
今回の発表では、延長の条件以外にもソーラーシェアリングを実施するために便利なチェックシートなど、導入前に読んでおくべき資料も公開されました。
ソーラーシェアリングを検討中の方は、しっかり読んで活用しましょう。
1. 農林水産省発表の要点
今回の発表の要点は、一定の条件を満たせば一時転用許可の期間を最長3年から最長10年に延長するというものです。
1-1. 【条件】一時転用期間を10年に延長するために必要な3つの条件(いずれか一つ必要)
一時転用期間の延長を受けるには、以下の3つの条件の、いずれかに該当する必要があります。
条件①:担い手が所有している農地又は利用権等を設定している農地で当該担い手が下部農地で営農を行う場合
条件②:農用地区域内を含め荒廃農地を活用する場合
条件③:農用地区域以外の第2種農地又は第3種農地を活用する場合農林水産省プレスリリース 「営農型発電設備の設置に係る農地転用等の取扱いについて」資料1−1「営農型太陽光発電設備の農地転用許可上の取扱いの変更について」(平成30年5月15日)
1つ目の条件にある「担い手」は、平成27年3月31日に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」で定義されています。
・農業経営改善計画の認定を受けた人
・青年等就農計画の認定を受けた人
・将来的な法人化が見込まれる集落営農 など
※担い手の詳しい定義を知りたい方は下記資料をご確認ください。
・「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて(30農振第78号平成30年5月15日)」の6ページ「別表」
・「食料・農業・農村基本計画」の40ページ「(1)力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保」
2つ目の条件は、「荒廃農地であれば農地の種類を問わない」ということです。
農林水産省が実施している調査で、「荒廃農地」と認められていることが必要です。
「荒廃農地」と「耕作放棄地」の違い
「荒廃農地」とよく似た言葉で「耕作放棄地」というものがあります。
意味を理解していないと、思わぬところでつまづくことになるのでしっかり理解しておきましょう。
「荒廃農地」が耕作したくても客観的に耕作が出来ない農地であるのに対して
「耕作放棄地」は過去1年以上耕作をしていなかった土地で、今後も耕作をする意思のない土地を指します。
「荒廃農地」の定義
「荒廃農地」とは、現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている次のいずれかに該当する農地をいう。① 笹、葛等の根の広がる植物が繁茂しており、地表部の草刈りのみでは作物の栽培が不可能な状態の農地
② 木本性植物(高木、灌木、低木等)を除去しなければ作物の栽培が不可能な状態の農地
③ 竹、イタドリ等の多年生植物が著しく生長し繁茂する等により、作物の栽培が不可能な状態の農地
④ 樹体が枯死した上、つるが絡まる等により、作物の栽培が不可能な状態にある園地
⑤ ①から④までに掲げるもののほか、現場における聞き取り等から明らかに荒廃農地と判断される農地「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査要領」(平成29年7月31日 農林水産省農村振興局長通知)より抜粋
「耕作放棄地」の定義
耕作放棄地とは以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいう。
3つ目の条件は、農用地区域以外の2、3種農地でソーラーシェアリングを実施する場合です。
この場合も、一時転用期間の延長を適用できることになります。
そもそも、農用地区域以外の2、3種農地は、通常の農地転用も行いやすいので適用されることになりました。
※第2種農地は他の所有地などの条件によって転用できない場合があります。
1-2. そもそもソーラーシェアリングに必要な4つの条件
ソーラーシェアリングをやるには、そもそも満たさないといけない条件があります。
・農作物の生育に適した日照量を確保すること
・営農に支障のないよう、架台の地上高2m以上を確保すること
・周辺農業の邪魔にならないこと
・年1回の報告を提出すること
これらを満たせない場合は、ソーラーシェアリングそのものが難しいでしょう。
2. 10年に延長された場合のメリット
今回の発表で、以下のような影響が予想できます。
2-1. 一時転用手続きの回数が6回から最小で1回に減る
これまでは、3年に1回一時転用許可の延長申請が必要でした。
そのため、20年の売電期間中に最低6回は手続きが必要でした。
今回の一時転用期間の延長によって最小で1回になります。
6回が1回になるため、非常に楽になるといえます。
2-2. 第2、3種農地でも架台部分の一時転用でソーラーシェアリングが可能になる
第2、3種農地は、もともと農地転用が可能だったこともあってソーラーシェアリングの位置付けが不明確でした。
元々の農水省の発表が、原則農地転用できない「農用地区域内の農地、甲種農地、第1種農地」を対象にしており、第2、3種農地が含まれていなかったからです。
農用地区域内農地(運用通知第2の1の(1)のアの農用地区域内にある農地をいう。)、甲種農地(運用通知第2の1の(1のウの甲種農地をいう。)又は第1種農地(運用通知第2の1の(1)のイの第1種農地をいう。)における支柱の設置について、一時転用許可の対象として可否を判断するものとする。
「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」(24農振第2657号 平成25年3月31日)より
第2、3種農地でソーラーシェアリングをできるかは、各地域の農業委員会の判断に委ねられていました。
今回の発表で、第2、3種農地でも支柱部分だけ一時転用してのソーラーシェアリングが可能であると明確になりました。
ただし、一時転用の場合は定期報告と、最低10年に1回の一時転用許可申請が必要です。
固定資産税の増加額と、申請の手間を天秤にかけて判断する必要があります。
3. 認定取り消し(売電中止)のリスクは一時転用許可が10年でも変わらないことに注意
もしも、あなたが次のようにお考えなら非常に危険な勘違いなのでご注意ください。
収穫量次第で売電できなくなるリスクは今までと変わりません。
なぜなら、転用許可の手続き回数が減っただけだからです。
つまり、今までと同様に次の2つが必要になります。
・10年間の一時転用許可を受けていても、毎年収穫量の報告を行う義務があります。
・収穫量が近隣の8割に満たない場合、指導や撤去の対象になります。
こちらが根拠となる農水省発表の条文です。
4 農地転用許可権者による転用事業の進捗状況の把握及び申請者に対する指導
(1) 農地転用許可権者は、(中略)一時転用許可後の転用事業の進捗状況を把握するものとする。
(2) 農地転用許可権者は、3の報告により営農の適切な継続が確保されなくなった場合(中略)必要な改善措置を講ずるよう指導するものとする。
(3) 農地転用許可権者は、営農が行われない場合、(中略)必要な改善措置が講じられない場合には、(中略)営農型発電設備を撤去するよう指導するものとする。支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて(30農振第78号平成30年5月15日)4ページより
他のリスク(農業収入が安定しない、ノウハウや引き継ぎの問題など)についても変わりませんのでご注意ください。
ソーラーシェアリングのリスクについては次の記事をご覧ください。
4. 一時転用期間延長の背景
今回農林水産省が一時転用許可の期間延長を発表した背景には、2016年3月末までに許可を受けたソーラーシェアリングの実態調査があります。
特に重視されたのは、次の2点でしょう。
・実際に農作業をする人がソーラーシェアリングを行う場合、農業に支障がでる割合が低い
・ソーラーシェアリングの3割は、荒廃農地を活用して設置された
トラブルが少ないケースと、農地の復活に繋がるケースを優遇する、ということです。
5. ソーラーシェアリングの検討に役立つ必読の資料
今回の発表では、制度の変更以外にもソーラーシェアリングの検討に役立つ資料が公開されました。
資料名 | 内容 |
---|---|
ソーラーシェアリングの優良事例集 | 事業として行うための参考になる事例集 |
導入チェックリスト | 導入検討から導入後のメンテナンスまで、考えることを網羅したチェックリスト |
相談窓口リスト | 導入したい人も自治体も相談できる窓口の紹介 |
いずれも農林水産省のウェブサイトからダウンロードできます。
検討中の方はぜひ目を通してください。
まとめ
最後に今回の農林水産省の発表の要旨をおさらいしておきましょう。
一定の条件を満たす場合、ソーラーシェアリグの支柱部分の一時転用期間を最長10年に延長する
①この方針によって、一時転用の手続きが簡素化されました。
具体的には、20年という売電期間中に必要だった6回の延長申請が、最小で1回まで減ります。
②ソーラーシェアリングを運用するリスクは変わりません。
導入を検討する際に役立つ資料も公開されましたので、必ず目を通して自分にできるのか検討しましょう。